障碍者雇用の取り組み 第3回
有限会社コンティニュー 代表取締役 森 健さん
マッサージ師 中野 貴雄さん
まずは動き出すこと
視覚障がい者3名を雇用している訪問医療マッサージ「すこやか」森社長と「すこやか」でマッサージ師として働く、全盲の障がいをもつ中野貴雄先生にお話を伺いました。
― 訪問医療マッサージについて教えて下さい。
森 寝たきりの方、平衡歩行や通院が自分一人では困難な方などの所に、国家資格を持ったマッサージ師がケアスタッフと共に訪問します。医療保険を使い、対象の高齢者・障がい者の方であれば一回の料金が交通費と施術代併せ、一割負担の212円~566円でご利用いただけます。
― すこやかさんでは、どのような取り組みをされていますか?
森 マッサージの施術を受けたくても治療院まで通院出来ない方や訪問医療マッサージを知らない方が大勢います。また、個人の治療院も患者様が通院してくれるのを待ち続けるしかなく、両者のマッチングが出来ていませんでした。そこで、訪問医療マッサージの認知度を広げ、両者を繋げる橋渡しをしています。
― 中野さんの一日の流れは?
中野 ケアスタッフさんに駅まで迎えに来てもらい事務所でミーティング後、ケアスタッフさんと共に患者さんの元に向かいます。帰りは直帰の時もありますね。
― 一日何人の方を診られるんですか?
中野 多い時は、10人~14人です。
― 一人に対して何分ぐらいの施術を行うんですか?
中野 30分ぐらい施術を行います。
― すこやかで働き始めたのは、いつ頃からですか?
中野 昨年の8月からです。
― それ以前は何をされていたんですか?
中野 個人の治療院で働いていました。盲学校を卒業後、他の場所でも働いていましたが、ご縁があって今の場所に落ち着いています。
― 障がい者を雇うのは健常者を雇うよりも、倍以上の配慮が必要だと思うのですが、なぜ、障がい者雇用を導入されているのですか?
森 最初の動機は、助成金も使えるので経営者という視点から見れば十分運営出来るし、訪問医療マッサージの市場性や将来性も高いという事で始めました。
― 視覚障がい者を雇用して困った事はありますか?
森 患者様からの依頼がない時に、「何か仕事をしてもらわなければならない。」と思いましたが、パソコン入力も出来ない、電話番も出来ない、安易に仕事を頼めないという理由から仕事を『作る』というプレッシャーはありました。最初は仕事を作る事に対して、こんなにプレッシャーを感じるとは思っていなかったので、スタートした頃は自宅待機の指示を出した事もありました。でも、やってみて気づく事ってたくさんあると思うので、それを困難というか、苦労と言っては何も仕事が始まりません。
― 中野さんは、お仕事で何か困った事はありませんか?
中野 ないです。健常者の方と仕事をさせてもらうと自分の悪い所がドンドン出てきてしまうというのはありますが、森社長にこうやって教えてもらっているんだなと感謝しています。お仕事させてもらえるだけでも有難いですし、私は、自分が頑張る自分が変わるという気持ちでやってかなければいけないなと思っています。誰でも色々良い面、悪い面がありますし、あぁしてほしい、こうしてほしいって言ったらきりがないと思うので、やっぱり自分がシッカリするしかない! と思っています。森社長の下で働くことで、色々な『気づき』を与えていただいてるので本当にやりがいを感じています。
― 私も半盲なので仕事をするという事は、身体的にも精神的にも疲れるんですが、中野さんは体力仕事の上、目の障がいで身体的にも精神的にも疲れませんか?
中野 疲れるという事はないですね。患者さんを元気にしてあげよう、少しでも良くなってもらおうという気持ちで頭を切り替えているので疲れるという事はないです。逆に思うようにマッサージが出来なかった時や、会話の中で失礼な事を言ってしまったとか、その時に疲れを感じます。
― では、施術作業の疲れというのはありませんか?
中野 その疲れは全くありません。
― それは、慣れからですか? 周囲の環境による事からですか?
中野 それは、両方です(笑)
― 中野さんの仕事を作るにあたって、森社長が工夫された事や勉強された事はありますか?
森 三重の起業道場に行って勉強し、ビジネスプランで優秀賞をもらいました。あとは、中野さん達と東日本大震災の時にボランティアでマッサージをしに行きました。中野さんは、知っている場所だと一人でも行動出来るのですが、震災後の土地であり、かつ慣れない場所だったので、トイレに連れて行ったり、ご飯を持っていったり大変でしたが、あれは良い経験でした。
― 今、現在困っている事はありますか?
森 患者様の開拓だけですね。
― 患者様が増えたら、たくさんの障がい者を雇っていきたいという事ですか?
森 ある程度のノウハウは分かったので、患者様を増やしながら、障がい者雇用も三ヶ月~半年に一人程度の割合で増やしていきたいと思っています。
― 雇用するポイントって何ですか?
森 自分が覚悟していれば良いだけの話ですから、どんな人でも受け入れるという気持ちを持っています。物覚えの速い人は現状に満足してしまう事が多く、逆に不器用な人ほど、もっと伸びようという人が多い傾向があるように思います。即戦力じゃなくても、じっくり時間をかけた人の方が良いと分かっているので早い段階で決めたりはしません。
― 障がい者も健常者も就職難で尻込みしてしまう人が多いと思うのですが、そんな方達にメッセージをお願いします。
中野 とにかく自分で、こうしたい、あぁしたいと気持ちを持つ事だと思います。そして、外へ出る! 積極的に外へ出るという気持ちを持つ事だと思います。外へ出てアクションを起こさないと情報も入ってこないし、人ともつながりません。とにかく人と会って、情報を仕入れるって事をしないとダメだなと思います。
インタビュアーのコメント
障がいを言い訳にせず、視覚障がいと向き合って前向きに仕事に取り組んでいる中野さん。障がいを理解し、「不器用な中にある真面目さ」を感じとってくれる森社長。
社長、従業員という上下関係があるものの、支えあっている二人の姿を見て、行動を起こせば障がいを知ろうとしてくれる雇用主さんもいるのだと左半身麻痺左半盲障害を持つ当事者の私も希望をもつ事が出来ました。